AI HISTORY 1943 → 2026

AIの歴史 完全図解
― 2度の冬と3度の春、なぜ今なのか

人工知能(Artificial Intelligence)は「新しい技術」ではない。80年以上かけて、期待 → 幻滅 → 冬(AI Winter)→ 基盤の蓄積を 2周し、いま3周目の只中にある。本ページは、その全史を年表・系譜図・対比図で一望できるようにまとめたものです。

作成 2026-08-12・改訂 2026-09-11 / 収録範囲 1943年〜2026年9月

① 30秒でわかるAI史

細部に入る前に、全体の骨格だけ先に押さえる。

起点 / Origin
1943年
神経細胞を論理回路として数式化
(形式ニューロン / McCulloch–Pitts)
命名 / Naming
1956年
ダートマス会議(Dartmouth Workshop)で
“Artificial Intelligence”が誕生
冬の回数 / AI Winters
2回
1974-80 / 1987-93
いずれも「過剰約束(over-promising)」が原因
転換点 / Turning Point
2012年
AlexNet。深層学習(Deep Learning)が
画像認識で圧勝
現代の設計図 / Blueprint
2017年
Transformer論文。
今のAIはほぼ全部この子孫
一般化 / Mainstream
2022年
ChatGPT公開(11/30)。
研究室から日常へ
一文で言うと:AI史とは「記号主義(Symbolic AI)=ルールを人が書くと 学習(Machine Learning)=データから機械が獲得するという 2つの流派の主導権争いの歴史」であり、2012年以降は計算資源(compute)とデータ量の爆発によって後者が完全に主役になった、という物語。

② 全体像 ― 8つの時代(3度の春と2度の冬)

時代は「ブーム(春)」「冬」「移行期」の3種類だけ。リストと下の図で、同じ種類には同じ色と記号を使っている。「▶ 時代を再生」で1943年から現在までを動かして見られる。

▲ ブーム(春) ❄ 冬 ― 移行期
1943–1955― 前史
前史(Prehistory):計算する機械が「考える」と言えるか 神経回路の数理モデル、サイバネティクス(Cybernetics)、チューリングテスト(Turing Test)。AIという言葉が生まれる前の土台づくり。
1956–1973▲ 第1次ブーム
推論と探索(Reasoning & Search)の黄金期 ダートマス会議でAI誕生。パズル・定理証明・簡単なゲームは解けたが、現実世界の問題は解けなかった(トイプロブレム / toy problem)。
1974–1980❄ 第1次冬
第1次AIの冬(First AI Winter) 組合せ爆発(combinatorial explosion)が明らかになったところで、評価報告書(ALPAC・ライトヒル)と米国防予算の使途を絞る法改正が資金の蛇口を閉めた。
1980–1987▲ 第2次ブーム
知識の時代(エキスパートシステム / Expert Systems) 狭い専門分野のルールに絞ったら初めて儲かった。日本の第五世代コンピュータ計画が各国の国家投資競争に火をつけた。
1987–1993❄ 第2次冬
第2次AIの冬(Second AI Winter) 専用LISPマシンが安い汎用ワークステーションに負け、知識を人手で保守するコストが利益を食い尽くした(知識獲得のボトルネック / knowledge acquisition bottleneck)。
1993–2011― 雌伏期
統計的機械学習(Statistical ML)とWebデータ 冬に明確な終わりの日はない。「AI」と名乗らずデータから学ぶ手法が、検索・迷惑メール判定・レコメンドで成果を積み、その間に計算機は速くなりWebがデータを生んだ。
2012–2021▲ 第3次ブーム
深層学習とTransformer データ・計算・アルゴリズムの3条件がそろい、AlexNetが実証。AlphaGo→Transformer→GPT-3と、認識(recognition)から生成(generation)へ。
2022–▲ 第3次ブーム(継続中)
生成AI(Generative AI)/エージェントの時代 ChatGPTで一般化し、2024年以降は「推論する(reasoning)」「自律的に手を動かす(agentic)」方向へ。このブームはまだ終わっていない(「なぜ第3次ブームだけ終わらないのか」参照)。
1943 上の時代にマウスを乗せる・タップする・Tabで選ぶと、その年へ移動
▲ 第1次ブーム ❄ 冬 ▲ 第2次 ❄ 冬 ▲ 第3次ブーム 1956 ダートマス 1980–82 XCON・第五世代 2012 AlexNet 2017 Transformer 2022 ChatGPT 1950196019701980 1990200020102020 社会的期待・投資(模式図)

※横軸は実年に比例(1年=どこでも同じ幅)。波の高さは期待度の模式であり、投資額などの実測値ではない。

③ なぜ始まり、なぜ終わったのか ― 6つの転換点

春も冬も、動かしたのは同じ3つ ― お金(誰が、どんな条件で出したか)、技術(機械と手法に本当は何ができたか)、期待(何を約束していたか)。各転換点について、引き金になった出来事と構造的な原因を並べる。

▲ ブームが始まる1955–1956

① 第1次ブームが始まった理由

新しい道具(プログラム内蔵式コンピュータ)、使い道の縛りが緩いお金、初期の成功が生んだ楽観 ― この3つが同時にそろった。

引き金(出来事)

  • 1955年8月:マッカーシー、ミンスキー、ロチェスター、シャノンが「artificial intelligence」の夏期研究をロックフェラー財団に提案(この語の初出。助成は7,500ドル)
  • 1956年:Logic Theoristが数学の定理を自動で証明

構造的な原因

  • 技術:プログラム内蔵式コンピュータが1950年代に大学へ入り始めた
  • お金:冷戦下、ARPA(1958)とその情報処理技術室IPTO(1962、J.C.R.リックライダー)が、使途の縛りが緩い大型資金をMIT・カーネギーメロン・スタンフォードに投じた【二次】
  • 期待:1958年、サイモンとニューウェルが「10年以内にコンピュータがチェス世界王者になる」と予言した(実現は1997年)
❄ 冬が始まる1966–1974

② 第1次ブームが終わり、冬が始まった理由

「おもちゃの問題は解けても、現実の規模では計算が爆発する」と分かった時点で、評価報告書と米国の法改正が資金の蛇口を閉めた。

引き金(出来事)

  • 1966年:ALPAC報告(米国の自動言語処理諮問委員会)が機械翻訳は実用にならないと結論。米国のMT資金は約20年止まる
  • 1969年:『Perceptrons』が単層ネットの限界を証明。ニューラルネット研究の資金が細る
  • 1969年:マンスフィールド修正条項。米国防予算で行う研究を、軍事機能に直結するものへ限定
  • 1973年:英ライトヒル報告が「現実規模には拡張できない」と結論し、英国のAI予算がほぼ停止。1976年:DARPA(米国防高等研究計画局)の音声理解研究が5年計画の満了で終了

構造的な原因

  • 技術:組合せ爆発。探索空間が指数関数的に増え、常識は書き切れなかった
  • 計算資源:記憶容量も速度も、現実の問題には小さすぎた
  • お金:資金が自由な基礎研究から、成果の見える目的研究へ移った
  • 期待:1958年の予言と実績の差が、もう無視できなくなった

論者による揺れ:冬の始まりを1973年(ライトヒル報告)とする説と1974年とする説がある。

▲ ブームが始まる1980–1983

③ 冬が終わり、第2次ブームが始まった理由

「汎用の知能」を諦めて「狭い専門知識」に絞ったら、初めて企業の帳簿で黒字になった。そこへ日本の国家計画が各国の対抗投資に火をつけた。

引き金(出来事)

  • 1980年:XCONがDECで本番稼働し、年間数千万ドル規模の節約と報じられる
  • 1982年:日本が第五世代コンピュータ計画を開始(推進母体はICOT=新世代コンピュータ技術開発機構)
  • 1982〜84年:対抗計画が相次ぐ ― 米MCC(1982〜83)、米DARPA戦略コンピューティング計画と英Alvey(1983)、欧州ESPRIT

構造的な原因

  • 技術:探索から知識工学(ファイゲンバウム)への転換。専門家のルールを入れれば、役に立つ答えが出る
  • 計算資源:ミニコンやワークステーションが、企業で買える値段になった
  • お金:企業の予算に、国家間の競争が加わった
❄ 冬が始まる1987–1992

④ 第2次ブームが終わり、冬が始まった理由

専用ハードの市場が汎用機に負けて崩れ、同時に「知識を人手で書き続けるコスト」が利益を食い尽くしていたことが露呈した。

引き金(出来事)

  • 1987年:Sunなどの汎用ワークステーションが価格性能でLISPマシンを逆転。Lisp Machines社が廃業し市場が崩壊
  • 1980年代末:DARPAがAI予算を大幅に削減【二次】
  • 1992年:第五世代計画が商業的な成果なしで終了

構造的な原因

  • 技術:知識獲得のボトルネック。ルール同士の矛盾と、例外に弱い脆さ
  • 市場:汎用PCやワークステーションが、専用機の存在理由を消した
  • 期待:「ルールを足すほど賢くなる」が「ルールを足すほど壊れる」に変わった
― 冬が明ける1990s–2000s

⑤ 第2次冬が終わった理由

明確な終戦日はない。「AI」と名乗らない統計的機械学習が、速くなった計算機とWebのデータで地道に成果を積み、気づけば春に戻っていた。

区切りとして挙げられる出来事

  • 1995年:SVM(サポートベクターマシン)。1997年:Deep Blueがカスパロフに勝利、LSTM
  • 1998年:Google創業。Webのリンク構造から学ぶ検索
  • 2006年:ディープビリーフネットで多層ネットが再び学習可能に

構造的な原因

  • 手法:ルールを書く方式から、データから確率を学ぶ方式へ
  • 計算資源:ムーアの法則で、昨日のスパコンが今日の机上の機械になった
  • データ:インターネットが学習素材をただで生み出した
  • 文化:共通のベンチマークで、進歩が「約束」ではなく「測定値」になった
▲ ブームが始まる2006–2012

⑥ 第3次ブームが始まった理由

データ・計算・アルゴリズムの3条件が同時にそろい、2012年のAlexNetが「深い学習は勝てる」ことを一発で実証した。

引き金(出来事)

  • 2012年:AlexNetが画像認識コンテストILSVRCで誤り率15.3%を記録し、同年2位の26.2%を大差で引き離した。同年、Googleの“猫”論文
  • 2011年:Google Brain設立。2014年:GoogleがDeepMindを買収し、企業の資金が流れ込む

構造的な原因

  • データ:ImageNet(2009)とWeb
  • 計算資源:CUDA(2007)でGPUが汎用計算に開放された
  • アルゴリズム:事前学習(2006)、ReLU、ドロップアウト
  • お金:今回は助成金ではなく企業の売上が原資(「なぜ第3次ブームだけ終わらないのか」参照)
第3次ブームは終わったのか:まだ終わっていない。終わるとしたらどの条件で、それが過去のどちらの冬の再演になるかは「なぜ第3次ブームだけ終わらないのか」にまとめた。

④ 前史(1943-1955)― 「考える機械」の理論的下地

AIという名前が付く前に、脳・情報・計算の3つが1本に束ねられた時期。

この時期の意味:「知能を作る」ための3つの部品 ― 脳のモデル(形式ニューロン)、学習の原理(ヘブ則)、評価の基準(チューリングテスト)― が出そろった。

⑤ 第1次ブーム(1956-1973)― 推論と探索

「知能とは記号の操作(symbol manipulation)である」という仮説のもと、探索木(search tree)で問題を解こうとした時代。

▲ 始まった理由新しい道具(コンピュータ)、縛りの緩い資金(ロックフェラー財団、のちARPA)、初期の成功が生んだ楽観がそろった。
▼ 終わった理由現実の規模では計算が爆発し、ALPAC報告・マンスフィールド修正条項・ライトヒル報告が資金を止めた。

→ 詳しくは「なぜ始まり、なぜ終わったのか」

できたこと

  • 定理証明・パズル・迷路
  • チェッカー、簡単なゲーム
  • 閉じた世界での言語理解
➔

できなかったこと

  • 現実世界の曖昧さ・常識(common sense)
  • 選択肢が増えると計算が破裂(組合せ爆発)
  • 翻訳など実用タスク(1966 ALPAC報告で機械翻訳の資金停止)

⑥ 第1次AIの冬(1974-1980)

技術の失敗ではなく、約束と成果のギャップによって起きた資金の引き上げ。

▲ 始まった理由現実の規模では計算が爆発し、評価報告書と米国の法改正が資金を止めた。
▼ 終わった理由専門分野に絞ったエキスパートシステムが企業で黒字を出し、第五世代計画が各国の投資競争を呼んだ。

→ 詳しくは「なぜ始まり、なぜ終わったのか」

🇬🇧 ライトヒル報告(1973)

英国科学研究会議の依頼でJ.ライトヒルがAI研究を評価。「組合せ爆発のため、研究室のデモは現実規模にスケールしない」と結論し、英国のAI研究費はほぼ停止した。

🇺🇸 DARPAの方針転換

自由な基礎研究への包括的支援から、成果の見える軍事応用重視へ。音声理解計画(SUR)の期待未達も重なり、資金が絞られた。

⚠ 構造的な3つの壁

①組合せ爆発=探索空間が指数関数的に増える/②常識の壁=人が書き切れない量の暗黙知(tacit knowledge)/③計算資源=当時のマシンは今のスマホよりはるかに非力。

🌱 冬に育ったもの

MYCIN(1970年代半ば、感染症診断の確信度付き推論)、PROLOG(1972)、フレーム理論(frame theory, 1975)。次のブームの部品はすべて冬に作られた。

⑦ 第2次ブーム(1980-1987)― 知識を注ぎ込む

「汎用の賢さ」を諦め、「特定領域の専門知識」に絞ったら、初めてお金になった。

▲ 始まった理由エキスパートシステムが企業で黒字を出し、1982年の日本の計画を機に国家計画が競い合った。
▼ 終わった理由1987年にLISPマシンが汎用機に負けて市場が崩れ、知識を人手で書き続けるコストが利益を食った。

→ 詳しくは「なぜ始まり、なぜ終わったのか」

この時代の教訓:専門知識を人手でルール化する方式は、①ルール同士の矛盾、②現場変化への追随、③暗黙知の記述不能、の3点で保守コストが指数的に増える(=知識獲得のボトルネック / knowledge acquisition bottleneck)。

⑧ 第2次AIの冬(1987-1993)

きっかけはハード市場の崩壊、本質はビジネスモデルの限界。

▲ 始まった理由専用ハードの市場が崩れ、知識獲得のボトルネックが隠せなくなった。
▼ 終わった理由明確な終わりの日はない。統計的機械学習が、速い計算機とWebのデータで成果を積み、段階的に解けた。

→ 詳しくは「なぜ始まり、なぜ終わったのか」

期待されていた姿

  • ルールを足せば足すほど賢くなる
  • 専用ハードで高速に推論
  • 専門家を代替して人件費を削減
➔

現実

  • ルール数千で矛盾と保守不能に
  • 1987年、汎用機の台頭でLISPマシン市場が消滅
  • 知識の更新に専門家と技術者が張り付き、結局高くつく
ただし冬=停滞ではない:1989年 LeCun のCNN(畳み込みニューラルネット)、1992年 TD-Gammon(強化学習 / reinforcement learning)、1995年 SVM、1997年 LSTM。いま使われている技術の多くはこの“冬”に生まれている。

⑨ 雌伏期(1993-2011)― 「AI」を名乗らずに社会へ

この時期、研究者は“AI”という言葉を避けた。代わりに機械学習・データマイニング・検索として実装が進む。

▲ 始まった理由冬のあいだ「AI」の看板を下ろし、データから学ぶ手法として実用化が進んだ。
▼ 終わった理由データ(ImageNet)・計算(GPU/CUDA)・アルゴリズムがそろい、2012年のAlexNetで第3次ブームへ移った。

→ 詳しくは「なぜ始まり、なぜ終わったのか」

⑩ 第3次ブーム前半(2012-2016)― 深層学習革命

「特徴を人が設計する」時代が終わり、「特徴をデータから学ぶ」時代が始まった。

▲ 始まった理由データ・計算・アルゴリズムが同時にそろい、2012年のAlexNetが実証した。
▼ 終わった理由まだ終わっていない。終わるとしたらどの条件かは「なぜ第3次ブームだけ終わらないのか」にまとめた。

→ 詳しくは「なぜ始まり、なぜ終わったのか」

Before:特徴量エンジニアリング / Feature Engineering

  • 人が「輪郭」「色ヒストグラム」等を設計
  • 分野ごとに専門家が必要
  • 精度は人の設計力の上限で頭打ち
➔

After:End-to-End 学習

  • 生データを入れれば内部で表現を獲得
  • 同じ手法が画像でも音声でも通用
  • データ量と計算量を増やせば精度が伸びる

⑪ 第3次ブーム後半(2017-2021)― Transformerと大規模化

今日のAIのほぼ全てが、この5年で敷かれたレールの上を走っている。

Transformer(2017) 自己注意機構 / 並列学習可能 Encoder系:BERT(2018) 検索・分類・意味理解 Decoder系:GPT(2018-) 文章生成・対話・コード Vision/拡散系(2020-) ViT・画像/動画生成 RLHF・指示チューニング(2022) 人の好みに沿わせる=使える道具へ ChatGPT(2022-11-30)→ 生成AIの一般化

⑫ 生成AIの時代(2022-2024)― 研究室から日常へ

技術的な断絶ではなく、UIと安全チューニング(alignment)によって“誰でも使える”になったことが本質。

🚀 推進側の論拠

知的労働の生産性を底上げし、創薬・材料・医療の探索を加速する。個人が専門家の力を借りられる“能力の民主化”。

生産性科学の加速アクセス平等

⚠️ 懸念側の論拠

ハルシネーション(hallucination)、学習データの著作権と対価、雇用の置き換え、偽情報とディープフェイク、計算資源とエネルギー、少数企業への集中。

幻覚著作権雇用偽情報寡占

⑬ 現在地(2024年末〜2026年)― 推論とエージェント

キーワードは「答える」から「考える・調べる・手を動かす」へ。日付のある出来事を先に並べ、年間を通じた潮流は下のカードにまとめた。

潮流1:推論モデルの普及

答える前に考えるモデルが2025年に標準になった。学習時だけでなく「答えるとき」に計算を使うことが、性能を伸ばす新しい軸になった。

潮流2:コーディングエージェント

数十分〜数時間の自律作業(複数ファイルの編集やテスト実行)が実用域に入り、開発現場の使い方が「補完」から「委任」へ移った。

潮流3:コンピュータ操作・業務エージェント

画面を見てクリック・入力するエージェントが、社内文書・メール・予定表とつながった。権限設計とプロンプトインジェクション(AIへの不正な指示の埋め込み)対策が実務課題に。

確度の注記:2026年9月11日時点で確認。個別の製品発表は網羅していない。最新動向は一次情報で更新すること。

⑭ 日本のAI史 ― 並行年表

世界史の裏で日本が何をしていたか。強かった時期と、乗り遅れた時期がはっきり分かれる。

年出来事位置づけ
1970早稲田大学がWABOT(人間型ロボット)プロジェクトを開始(二足歩行の研究は1967年のWL-1から。WABOT-1完成は1973年)知能ロボット分野で世界最先端の一角
1982第五世代コンピュータ計画が開始(ICOT。〜1992年、約540億円)論理型並列処理に賭けた国家PJ。技術資産は残ったが、市場は汎用機+統計手法へ流れた
1987仙台市地下鉄がファジィ制御で開業。1990年前後にファジィ家電が続く「賢い制御」として世界に輸出。AI冬の時期の実務的成功例
1990sニューラルネット搭載家電、日本語ワープロのかな漢字変換AIと呼ばれずに生活へ浸透した層
2012深層学習ベンチャーが登場 ― ABEJA(2012)、Preferred Networks(2014)。東大松尾研の発信第3次ブームの受け皿づくり
2016官民データ活用推進基本法データ活用の法的な土台
2018著作権法30条の4の改正(2019年1月施行):情報解析のための利用を柔軟に許容機械学習に比較的寛容な法制として国際的に注目された
2019AI戦略2019(AI人材を年25万人育成する目標)政策としての本格始動
2023生成AIの急速な普及、G7広島AIプロセスの議長国利用は速いが基盤モデル開発では出遅れ、という構図が明確に
2024AI事業者ガイドライン(総務省・経産省、4月)公表、国産LLMの相次ぐ公開ソフトロー中心の枠組みを提示
2025「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI推進法)成立(5月28日)罰則型規制ではなく、推進と司令塔整備が主眼

⑮ アイデアの系譜 ― 何が何を生んだか

年表を横に切ると、AI史は2本の川に分けられる。

🧩 記号主義 / Symbolic AI(GOFAI=古き良きAI)

  • 知能=記号の論理操作
  • 探索、述語論理、フレーム、エキスパートシステム
  • 強み:説明可能(explainable)・少データで動く
  • 弱み:常識と例外を書き切れない
  • 系譜:Logic Theorist → LISP → MYCIN → 知識グラフ → 現在のルール/検証層
VS

🔷 コネクショニズム / Connectionism(学習)

  • 知能=データからの統計的獲得
  • パーセプトロン、逆伝播、CNN、Transformer
  • 強み:曖昧・大規模データに強い
  • 弱み:説明困難・大量の計算とデータが要る
  • 系譜:形式ニューロン → 逆伝播 → AlexNet → Transformer → LLM
現在は再統合の局面:LLM(学習側)に検索・計算機・コード実行・ルール検証(記号側)を接続する構成が主流。“どちらが勝ったか”ではなく、記号側を道具として学習側が呼び出す形で決着しつつある。
基盤アイデア初出現在どこで生きているか
誤差逆伝播 / Backpropagation1986(原型1970年代)すべての深層学習モデルの学習
強化学習・TD学習1988/1992AlphaGo、RLHF、推論モデルの学習
畳み込み / CNN1989/1998画像認識、医療画像、拡散モデルの内部
注意機構 / Attention2014→2017ほぼ全ての現代モデル
拡散モデル / Diffusion2015→2020画像・動画・音声生成
事前学習+微調整2018基盤モデルという産業構造そのもの
推論時スケーリング2024推論モデル、エージェントの長考

⑯ なぜ第3次ブームだけ終わらないのか

過去2回と決定的に違う点を、4つの観測可能な事実で押さえる。

① 収益が出ている

過去のブームは研究費と国家予算が原資だった。現在は課金・広告・クラウド利用料という民間の実売上が回っている。資金源が政策判断ひとつで消えない。

② 計算資源が桁違い

GPU/専用チップとクラウドにより、1980年代とは比較にならない規模の学習が可能。ハードの制約で止まった前2回との最大の差。

③ データが自然に溜まる

Web・スマホ・業務SaaSが学習素材を生み続ける。知識を人手で書いた第2次ブームのボトルネックが構造的に解けた。

④ 汎用の土台がある

同じ基盤モデルを微調整して多用途に使える。用途ごとにゼロから作った過去と違い、投資が積み上がる。

ただし“冬”の条件は消えていない:①期待と実績の乖離(万能だと語られ続ける)、②単位あたりコストが下がらない場合の採算割れ、③事故・訴訟・規制による強制減速、④スケーリングの収穫逓減(diminishing returns)。過去2回の冬はいずれも「技術が使えなくなった」のではなく「約束が果たされなかった」ことで来た。判断材料は常にここに置く。
過去との対応:①は2度の冬に共通する原因、②は第2次冬(専用機の採算割れ)、③は第1次冬(評価報告と法改正による資金停止)、④は第1次冬(組合せ爆発のような技術の壁)の再演にあたる。ただし④については、学習の規模を増やし続ける代わりに「答えるときに長く考えさせる」推論時計算へ移るという適応がすでに起きている。

⑰ 制度・倫理の歴史

技術史と並走するもう一本の年表。近年はこちらの方が実務インパクトが大きい。

年出来事意味
1942アシモフ「ロボット工学三原則」(小説内)フィクション由来だが、安全原則の議論の出発点として今も参照される
1976ワイゼンバウム『コンピュータ・パワーと人間の理性』ELIZA開発者自身による、AIに委ねてはいけない領域の指摘
2016EU GDPR採択(2018施行)/自動化された意思決定への規律データとプロファイリングの規制が先行
2017アシロマAI原則研究者コミュニティによる自主原則
2019OECD AI原則/日本「人間中心のAI社会原則」各国共通の価値基準づくり
2021UNESCO AI倫理勧告/EUがAI法案を提示ソフトローからハードローへ
2023.05G7広島AIプロセスが始動日本が議長国となり、生成AIの国際ルール作りが始まる
2023.11ブレッチリー宣言(英AI安全サミット)最先端AIのリスクで各国が協力に合意
2023.12EU AI Act 政治合意生成AI登場から1年での急速な制度化
2023.12ニューヨーク・タイムズがOpenAIとMicrosoftを提訴。学習データを巡る訴訟(報道・画像・音楽)が本格化「合法に学習できる範囲」が判例で形成される段階へ
2024.08EU AI Act 発効(リスクベース規制・段階適用)世界初の包括的AI法。域外適用があり日本企業にも影響
2025.05日本 AI推進法が成立/各国の表示義務・透明性ルール整備推進型(日本)と規制型(EU)の対比が鮮明に

⑱ 押さえるべき人物

名前と「何をした人か」を1行で結びつけておくと、年表が立体になる。カードにマウスを乗せる(スマホはタップ、キーボードはTab)と詳しい経歴が開く。

AT
アラン・チューリング / Alan Turing(1912–1954) 計算理論の基礎とチューリングテスト(1950)。「知能の定義」を実験可能な形にした。
ケンブリッジ大学 → ブレッチリー・パーク(大戦中の暗号解読)→ マンチェスター大学。1936年の論文で、あらゆるコンピュータの抽象モデル「チューリングマシン」を定義した。1950年に哲学誌『Mind』で「模倣ゲーム」を提案。1954年、41歳で死去。
JM
ジョン・マッカーシー / John McCarthy(1927–2011) “Artificial Intelligence”の命名者、LISP開発者。ダートマス会議の主催。
ダートマス大学 → MIT → スタンフォード大学(1962年〜)。共同で書いた1955年のダートマス夏期研究の提案書で「artificial intelligence」という語が初めて使われた。LISPを開発(1958年、論文は1960年)。1971年チューリング賞。
MM
マービン・ミンスキー / Marvin Minsky(1927–2016) MIT AI研究所を共同創設。フレーム理論。『Perceptrons』でNN(ニューラルネット)冬の一因も作った。
1951年に学習機SNARCを製作、1959年にマッカーシーとMITのAI研究グループを共同設立。1969年の『Perceptrons』(シーモア・パパートと共著)で単層ネットの限界を証明。1974〜75年に知識表現のフレーム理論を提唱。1969年チューリング賞。
HS
ハーバート・サイモン(1916–2001)/アレン・ニューウェル(1927–1992) Logic Theorist、GPS(汎用問題解決器)。記号主義の中心。サイモンはノーベル経済学賞も受賞。
RAND研究所とカーネギーメロン大学で共同研究。Logic Theorist(1956)で定理を自動証明し、GPS(1957〜59)で方法を一般化した。1975年に2人でチューリング賞。サイモンは意思決定の「限定合理性」の研究で1978年ノーベル経済学賞。
FR
フランク・ローゼンブラット / Frank Rosenblatt(1928–1971) パーセプトロン(1957〜58)。学習する機械の実装第一世代。
コーネル航空研究所・コーネル大学。パーセプトロンの初報告は1957年、学術誌『Psychological Review』の論文は1958年、実機Mark Iはその後。多層ネットの正しさが証明される前の1971年、ボート事故で死去。
GH
ジェフリー・ヒントン / Geoffrey Hinton(1947–) 逆伝播の普及、深層学習の再興、AlexNet。2018年チューリング賞、2024年ノーベル物理学賞。
カーネギーメロン大学 → トロント大学。逆伝播(1986)、ディープビリーフネット(2006)、教え子とのAlexNet(2012)。2013年、自身の会社DNNresearchがGoogleに買収されて入社。2023年5月にGoogleを退社し、理由を「AIの危険について自由に話すため」と本人が説明した。現在はトロント大学名誉教授で、AIリスクを警告する代表的な論者。
YL
ヤン・ルカン / Yann LeCun(1960–) CNN(画像向けの畳み込みネット)の実用化(LeNet)。自己教師あり学習と、LLM一辺倒への批判的立場でも知られる。
ベル研究所(手書き数字認識のLeNet)→ ニューヨーク大学(2003)→ Facebook AI研究所の初代所長(2013)、のちMetaのチーフAIサイエンティスト。2025年11月にMeta退社を発表し、物理世界の仕組みを学ぶ「世界モデル」を作るAMI Labsを創業。2018年チューリング賞。
YB
ヨシュア・ベンジオ / Yoshua Bengio(1964–) ニューラル言語モデルと注意機構の基礎研究。ヒントン・ルカンと3人で2018年チューリング賞。
モントリオール大学、研究所Milaの創設者。2003年のニューラル確率言語モデルは今日のLLMの先駆け。2014年の翻訳用Attention機構も彼の研究室から生まれた。2025年6月、AI安全研究の非営利組織LawZeroを設立。
FL
フェイフェイ・リー / Fei-Fei Li(1976–) ImageNet構築。「データこそが鍵」を実証し、深層学習革命の舞台を用意した。
スタンフォード大学教授。2009年にImageNetを公開し、2012年にAlexNetが優勝した画像認識コンテストILSVRCを運営した。スタンフォード「人間中心のAI研究所(HAI)」共同所長。2024年、3次元空間を理解する「空間知能」モデルを作るWorld Labsを共同創業。
DH
デミス・ハサビス / Demis Hassabis(1976–) DeepMind共同創業。AlphaGo、AlphaFold。2024年ノーベル化学賞。2026年8月にDeepMindのCEOを退任。
チェスの神童・ゲーム開発者を経て、UCLで神経科学の博士号。2010年にシェーン・レッグ、ムスタファ・スレイマンとDeepMindを共同創業し、2014年にGoogleが買収。AlphaGo(2016)とAlphaFoldを率い、2024年にジョン・ジャンパー、デビッド・ベイカーとノーベル化学賞。2026年8月5日にCEOを退任し、Google DeepMind会長 兼 Alphabetチーフサイエンティストに。日常の運営はコレイ・カブクチュオールが統括する。
JS
ユルゲン・シュミットフーバー / Jürgen Schmidhuber(1963–) LSTM(長期の記憶を保てる回帰型ネット、1997)ほか。現代手法の先行研究に関する主張でも論争的な存在。
スイスのAI研究所IDSIA、サウジアラビアのKAUSTにも所属。教え子ゼップ・ホッホライターとのLSTM(1997)は、Transformer登場まで音声認識や翻訳を支えた。他者の功績とされる多くのアイデアは自分たちの先行研究に現れていたと主張しており、これには異論もある。
IS
イリヤ・サツケバー / Ilya Sutskever(1986–) AlexNet、Seq2Seq、GPTシリーズ。スケーリング路線の中心人物のひとり。現在はSSIを率いる。
トロント大学でヒントンの教え子(AlexNet、2012)→ Google Brain(Seq2Seq、2014)→ 2015年OpenAI共同創業・チーフサイエンティスト。2024年5月にOpenAIを退社し、6月にSafe Superintelligence Inc.(SSI)を共同創業、2025年7月からCEO。

⑲ 2026年、Googleを去った人々

2026年、現代AIを作ってきた人々がGoogleを相次いで去った。流出は2つの波で起き、AI人材の重心が動いていることを示している。

第1波(2026年6月):競合への移籍。約1週間のうちに、AlphaFoldを率いたジョン・ジャンパーがAnthropicへ、Gemini共同責任者のノーム・シェイザーがOpenAIへ移り、Geminiの中核メンバーもAnthropicへ続いたと報じられた。
第2波(2026年8月5日):創業世代の独立。ジェフ・ディーン、サンジェイ・ゲマワット、オリオル・ヴィニャルス、クォック・レの4人がそろって退社し、研究の自動化を目指す公益法人(PBC)Discovery Loopを設立。同じ日にデミス・ハサビスがGoogle DeepMindのCEOを退任した。
JD
ジェフ・ディーン / Jeff Dean GoogleのチーフサイエンティストAI。大規模AIを学習させる基盤を作った。27年勤めて2026年8月に退社。
1999年、初期の技術者としてGoogleに入社。サンジェイ・ゲマワットと分散処理のMapReduceやBigtableを設計し、2011年にGoogle Brainを共同創設、TensorFlowを主導した。のちGoogle AI責任者、チーフサイエンティスト。2026年8月5日に退社してDiscovery Loopを共同設立。「必ずしも会社の純粋な財務上の利益に沿わない判断ができる」機会だと語った。
SG
サンジェイ・ゲマワット / Sanjay Ghemawat Google Senior Fellow。ジェフ・ディーンと二人三脚で、GoogleとTensorFlowの土台を作った。
Google File System、MapReduce、Bigtableの共同設計者で、TensorFlowの共著者。ニューラルネットを数千台のマシンで学習させる分散システムを作った。2026年8月5日にDiscovery Loopの共同創業者として退社。
OV
オリオル・ヴィニャルス / Oriol Vinyals Google DeepMind 研究担当VP。Seq2Seqの共著者で、AlphaStarを率いた。2026年8月に退社。
ニューラル翻訳やチャットボットの土台となった符号化器–復号器の設計Seq2Seq(2014、サツケバー、レと共著)の著者。戦略ゲーム『StarCraft II』でグランドマスター級に達したAlphaStar(2019)を率いた。2026年8月5日に退社し、Discovery Loopを共同設立。
QL
クォック・レ / Quoc Le Google Brainの創設メンバー。“猫”論文とSeq2Seq。2026年8月に退社。
2012年、ラベルなしのYouTube画像からネットワークが「猫」の概念を獲得した論文の筆頭著者。Seq2Seq(2014)の共著者で、のちにモデル設計の自動化(AutoML)を推進した。2026年8月5日に退社し、Discovery Loopを共同設立。
NS
ノーム・シェイザー / Noam Shazeer Transformer論文の共著者、Gemini共同責任者。一度退社して2024年に復帰し、2026年6月にOpenAIへ移籍。
2017年のTransformer論文と、専門家ネットを切り替える疎なMixture-of-Expertsの共著者。2021年に退社してCharacter.AIを共同創業し、2024年にライセンス契約を通じてGoogleへ復帰、Geminiの共同責任者に。2026年6月に再び退社し、OpenAIに移った。
JJ
ジョン・ジャンパー / John Jumper AlphaFoldを率いた。2024年ノーベル化学賞。2026年6月にDeepMindからAnthropicへ。
博士号取得の約半年後にAlphaFoldチームを任された。AlphaFold2(2020)はタンパク質の構造予測を実質的に解決し、2024年にハサビス、デビッド・ベイカーとノーベル化学賞を共同受賞。DeepMindに約9年在籍したのち、2026年6月にAnthropic入りを発表した。
DS
デイビッド・シルバー / David Silver AlphaGo・AlphaZeroを率いた。2026年初めにDeepMindを離れ、自ら新会社へ。
DeepMind初期の研究者で、UCL教授。AlphaGo(2016)、チェス・将棋・囲碁を独学したAlphaZero(2017)、ルールまで自分で学ぶMuZero(2019)を率いた。サバティカル(研究休暇)から戻らず、新会社Ineffable Intelligenceを設立したと2026年1月に報じられた。

それ以前の離脱 ― Google出身者はどこへ行ったか

2017年のTransformer論文の著者8人は全員Googleを去っている。いまのAI企業の多くは、Googleで育った人が創業した。【二次】は二次情報のみで確認したもの。

人物Google時代退社その後(2026年時点)
アシシュ・バスワニ / Ashish VaswaniTransformer筆頭著者2021年頃Adept、Essential AIを共同創業【二次】
ニキ・パルマー / Niki ParmarTransformer共著者2021年頃Adept、Essential AIを経てAnthropic【二次】
ヤコブ・ウスコライト / Jakob UszkoreitTransformer共著者2021Inceptive共同創業・CEO(AIでRNA医薬を設計)【二次】
リオン・ジョーンズ / Llion JonesTransformer共著者(Google日本法人)2023東京のSakana AIを共同創業・CTO
エイダン・ゴメス / Aidan GomezTransformer共著者(当時インターン)2019企業向けLLMのCohereを共同創業・CEO
ウカシュ・カイザー / Łukasz KaiserTransformer共著者2021OpenAI(言語モデル・推論の研究)【二次】
イリヤ・ポロスキン / Illia PolosukhinTransformer共著者2017ブロックチェーンのNEAR Protocolを共同創業【二次】
ノーム・シェイザー / Noam ShazeerTransformer共著者2021 / 2026Character.AI → 2024年Google復帰 → 2026年OpenAI(上のカード参照)
ムスタファ・スレイマン / Mustafa SuleymanDeepMind共同創業者2022Inflection AIを創業、2024年3月からMicrosoft AIのCEO
ジェフリー・ヒントン / Geoffrey Hinton研究者(DNNresearch買収で入社)2023.05AIリスクを自由に語るため退社。トロント大学名誉教授
アルテュール・マンシュ / Arthur MenschDeepMindパリ(Chinchilla論文の共著者)2023仏Mistral AIを共同創業・CEO
デイビッド・ハ / David HaGoogle Brain東京を立ち上げ2022Sakana AI(東京)を共同創業・CEO
確度:2026年の退社は当時の報道(Fortune、TechCrunch、CNBC、Bloomberg)に基づき、2026-09-11に確認した。退社理由は本人が公に述べたものだけを書いている。【二次】の行は二次情報のみで確認したもの。

⑳ 用語・略語

歴史を読むときに意味がぶれやすい語と、このページで使った略語の一覧。

重要な用語

AI冬 / AI Winter
期待外れによる資金と関心の急減期。1974-80年、1987-93年の2回が一般に数えられる。技術の消滅ではなく投資の撤退を指す。
トイプロブレム / Toy Problem
研究室の単純化された問題。第1次ブームの手法はここでは動いたが、現実規模には拡大できなかった。
組合せ爆発 / Combinatorial Explosion
問題が大きくなると調べるべき組合せが指数関数的に増え、しらみつぶしの探索が不可能になること。第1次冬の技術的な主因。
フレーム問題 / Frame Problem
行動によって何が変化し何が変化しないかを、有限の計算で切り分けられない問題(1969年提起)。常識の壁の代表例。
知識獲得のボトルネック / Knowledge Acquisition Bottleneck
専門家の知識をルールとして書き出し保守するコストが膨張し、システムが破綻する現象。第2次冬の主因。
GOFAI(Good Old-Fashioned AI=古き良きAI)
記号主義AIの通称。人がルールを書き、機械が記号を論理的に操作する方式。
特徴量エンジニアリング / Feature Engineering
データのどこに注目するかを人が設計する作業。深層学習はこれを自動化した。
Transformer / 自己注意機構
系列内の各要素が他のどの要素を重視するかを学習する構造(2017)。並列計算に向き、大規模化を可能にした現代AIの中核。
基盤モデル / Foundation Model
大量データで事前学習し、多様な用途へ転用できる汎用モデル。GPT・Claude・Gemini等。
スケーリング則 / Scaling Laws
パラメータ・データ・計算量を増やすと性能が予測可能に向上するという経験則(2020)。巨額投資の根拠になった。
few-shot学習
再学習せず、指示の中にいくつか例を見せるだけで新しいタスクをこなすこと。GPT-3(2020)で有名になった。
推論時計算 / Inference-time Compute
学習時だけでなく、答えるときに計算を多く使って「長く考えさせる」こと。推論モデル(2024年〜)の土台。
ハルシネーション / Hallucination
もっともらしい誤りを自信を持って生成する現象。確率的に次を予測する仕組みに内在し、検索連携や検証で緩和する。
AIエージェント / AI Agent
目標を与えると、自分で計画し道具(検索・コード・アプリ)を使って複数手順の作業を実行するAI。2024年以降の主戦場。
AGI / 汎用人工知能
人間並みに幅広い課題をこなす仮想的水準。定義が定まっておらず、達成時期の予測は主張者ごとに大きく割れる(=未確定)。

略語

略語正式名称ひとことで
ALPACAutomatic Language Processing Advisory Committee米国の自動言語処理諮問委員会。1966年の報告で機械翻訳の資金が止まった
APIApplication Programming Interfaceソフト同士が機能を呼び出し合うための窓口
ARPAAdvanced Research Projects Agency1958年設立の米国防総省の研究機関。1972年にDARPAへ改称
AutoMLAutomated Machine Learningモデルの設計や調整そのものを機械に探索させる技術
BERTBidirectional Encoder Representations from TransformersGoogleが2018年に発表した、文の前後両方向から意味を読むTransformerモデル
CASPCritical Assessment of protein Structure Predictionタンパク質構造予測の隔年コンテスト。AlphaFoldが首位を取った
CLIPContrastive Language–Image Pre-training画像と文章を同じ空間で対応づけるOpenAIのモデル(2021)
CNNConvolutional Neural Network小さなフィルタで画像を走査するニューラルネット。画像認識の基本形
CUDACompute Unified Device ArchitectureGPUを汎用計算に使うためのNVIDIAの仕組み(2007)
DALL·E(略語ではない製品名)OpenAIの、文章から画像を生成するモデル(2021年〜)。名前は画家ダリとピクサーの『WALL·E』から
DARPADefense Advanced Research Projects Agency米国防高等研究計画局(1972年まではARPA)。AI研究の大口の出資者
ESPRITEuropean Strategic Programme for Research in Information Technology1983〜84年に始まった欧州の情報技術研究計画
GANGenerative Adversarial Network生成役と判定役の2つのネットを競わせて本物らしい画像を作る方式(2014)
GDPRGeneral Data Protection RegulationEUの個人データ保護規則(2016採択・2018施行)
GPSGeneral Problem Solverニューウェルとサイモンの汎用問題解決プログラム(1957〜59)
GPTGenerative Pre-trained Transformer大量の文章で事前学習し、続きの文章を生成するOpenAIのTransformer(2018年〜)
GPUGraphics Processing Unit画像処理用の半導体。大量の並列計算がニューラルネットに向く
HAIStanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligenceスタンフォード大学の「人間中心のAI研究所」(2019年設立)
ICOT新世代コンピュータ技術開発機構日本の第五世代コンピュータ計画を推進した機関
IDSIAIstituto Dalle Molle di Studi sull’Intelligenza Artificialeスイス・ルガーノのAI研究所
ILSVRCImageNet Large Scale Visual Recognition ChallengeImageNetを使う画像認識の年次コンテスト。2012年にAlexNetが優勝
IPTOInformation Processing Techniques OfficeARPAの情報処理技術室(1962年設立)。初代室長はJ.C.R.リックライダー
KAUSTKing Abdullah University of Science and Technologyサウジアラビアの科学技術大学
LLMLarge Language Model大量の文章で学習した大規模言語モデル(GPT・Claude・Gemini等)
LSTMLong Short-Term Memory長い系列でも情報を保てる回帰型ネット(1997)
MCCMicroelectronics and Computer Technology Corporation第五世代計画に対抗して米国企業が共同で設立した研究組織(1982〜83年)
MCPModel Context ProtocolAIモデルを外部のツールやデータにつなぐ公開規格(2024)
OECDOrganisation for Economic Co-operation and Development経済協力開発機構。2019年にAI原則を採択
PBCPublic Benefit Corporation利益に加えて公益の追求を定款で義務づける米国の会社形態
PDPParallel Distributed Processing逆伝播とコネクショニズムを広めた1986年の2巻本
QAQuestion Answering自然な言葉で聞かれた質問に答えること
RLHFReinforcement Learning from Human Feedback人の評価で出力を「役に立ち、無害で、正直」な方向へ寄せる工程。ChatGPTの使いやすさの正体
RNNRecurrent Neural Network系列を1つずつ処理し、記憶を次へ引き継ぐニューラルネット
SaaSSoftware as a Serviceネット経由で月額などで使うソフトウェア
SSISafe Superintelligence Inc.イリヤ・サツケバーらが2024年に設立したAI企業
SVMSupport Vector Machine理論的な裏付けの強い統計的分類器。2000年代の主役(1995)
TD学習Temporal-Difference learning次の時点の予測との差から予測を更新する強化学習の手法(1988)
UCLUniversity College Londonロンドン大学を構成するカレッジの一つ
VAEVariational Autoencoderデータを滑らかな潜在空間に圧縮し、そこから新しいデータを生成するモデル(2013〜14)
ViTVision Transformer画像を小片に分けてTransformerで処理する方式(2020)

㉑ 一枚年表

検索・引用用の一覧。日付順に厳密に並べている(期間は開始時点に置く)。★は歴史の分岐点。

年出来事区分
1943★ 形式ニューロン(McCulloch & Pitts)理論
1948サイバネティクス/情報理論理論
1949ヘブ則理論
1950★ チューリングテスト理論
1951SNARC(NN学習機)実装
1952サミュエルのチェッカー実装
1955ダートマス夏期研究の提案書(「artificial intelligence」の初出)制度
1956★ ダートマス会議/Logic Theorist制度・実装
1957パーセプトロン(初報告)/GPSの開発開始実装
1958LISP/ARPA設立基盤
1959“machine learning”の語(サミュエル)理論
1965DENDRAL実装
1966ELIZAの論文発表/ALPAC報告(機械翻訳の資金停止)実装・制度
1969★『Perceptrons』/マンスフィールド修正条項/フレーム問題の提起理論・制度
1970SHRDLU実装
1972PROLOG/MYCIN開発開始基盤
1973★ ライトヒル報告 → 第1次冬制度
1975フレーム理論(Minsky)理論
1980★ XCON本番稼働/エキスパートシステム産業化産業
1982★ 第五世代コンピュータ計画開始(〜1992)/ホップフィールド網制度・理論
1983対抗計画:DARPA戦略コンピューティング、英Alvey制度
1986★ 誤差逆伝播法の普及(PDP)理論
1987★ LISPマシン市場崩壊 → 第2次冬産業
1988TD学習(サットン)理論
1989LeNet(CNNの実用化)実装
1992TD-Gammon/第五世代計画が終了実装・制度
1995SVM理論
1997★ Deep Blue勝利/LSTM実装
1998PageRank/Google創業産業
2006ディープビリーフネット(deep learning再起動)理論
2007CUDA公開基盤
2009★ ImageNet公開基盤
2011Watson優勝/Siri/Google Brain設立産業
2012★ AlexNet圧勝/Googleの猫実装
2013word2vec実装
2014GAN/Seq2Seq/Attention/DeepMind買収実装
2015ResNet/TensorFlow/OpenAI設立基盤
2016★ AlphaGo勝利/GDPR採択実装・制度
2017★ Transformer/AlphaGo Zero/アシロマ原則理論
2018BERT/GPT-1/AlphaFold/チューリング賞3氏実装
2019GPT-2/MS-OpenAI提携/OECD AI原則産業・制度
2020★ GPT-3/スケーリング則/AlphaFold2実装
2021DALL·E/CLIP/Copilot/EU AI法案産業・制度
2022.03Chinchilla則理論
2022.08Stable Diffusion公開(重み公開)産業
2022.11★ ChatGPT公開産業
2023.03★ GPT-4/Claude/各社一斉参入産業
2023.05–12広島AIプロセス/ブレッチリー宣言/EU AI Act政治合意制度
2024.02–08Sora発表/GPT-4o/EU AI Act発効産業・制度
2024.09★ 推論モデル(考える時間のスケーリング)理論
2024.10AI研究にノーベル物理学賞・化学賞制度
2024.11MCP公開(ツール接続の標準化)基盤
2025.01DeepSeek-R1産業
2025.02EU AI Actの禁止規定が適用開始制度
2025.05日本のAI推進法が成立制度
2026.01デイビッド・シルバーがDeepMindを離れ、Ineffable Intelligenceを設立産業
2026.06★ Google DeepMindから主要人材流出の第1波(ジャンパー、シェイザー)産業
2026.08ジェフ・ディーンらがDiscovery Loop設立/ハサビスがCEO退任産業

㉒ 歴史から取り出せる5つの原則

80年分を圧縮すると、繰り返し効いている法則はこの5つ。

1. 冬は技術ではなく期待が作る

2度の冬はどちらも、性能低下ではなく「約束したことができなかった」ことで起きた。誇大な物語は最大のリスク要因。

2. 冬の間に次の主役が育つ

逆伝播・CNN・LSTM・強化学習は全て不遇期の産物。ブームが終わっても研究を続けた者が次を取った。

3. ボトルネックは常に移動する

アルゴリズム→計算資源→データ→再び計算資源→そして今は信頼性・電力・制度。どこが詰まっているかを見れば次の投資先が読める。

4. 汎用より用途特化が先に稼ぐ

GPSは売れずXCONは売れた。今も、汎用モデルより特定業務に食い込んだ実装のほうが早く成果を出す。

5. 社会実装は「精度」より「接続」で決まる

ChatGPTの普及要因はモデルの新規性ではなくUIと安全調整。エージェント時代も、業務データと権限への接続設計が勝敗を分ける。

📌 使い方

新しいAIニュースを見たら「これは第何次ブームのどのパターンの再演か」「どのボトルネックを解いたのか」の2問に当てはめる。ほとんどの話題はこれで整理できる。